厚生労働省平成24年4月1日付「新」基準はただしい
厚生労働省4月1日付「新」基準は、原発事故後・業界優先配慮の緩和暫定措置基準から、従来の健康を守るに最低限必要な基準値年間1ミリシーベルトへ戻したうえ算定されたもので、極めて正しいだけ。農水省からの厚労省基準値を順守するようにという要請も極めて正しいものです。
ですが、健康を守るために適正かつ最低限の基準値について「取りえない」という動きがあるようです。
ここではいかで、厚労省の基準値は健康被害を防止するための最低限度の基準であり、絶対に市場で強制的に守られなければならないものであるという点根拠を述べていきたいと思います。
1.農水省が要請する「新しい」基準値とは?
厚労省まとめページ:http://www.mhlw.go.jp/shinsai_jouhou/shokuhin.html
厚労省平成24年4月1日から施行された新基準値についてのパンフレット:
http://www.mhlw.go.jp/shinsai_jouhou/dl/leaflet_120329_d.pdf
http://www.mhlw.go.jp/shinsai_jouhou/dl/leaflet_120329.pdf
平成24年4月1日から施行された新基準値について:
http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/iyaku/syoku-anzen/iken/dl/120117-1-03-01.pdf
この基準はICPR(国際放射線防護委員会)の年間放射線量限界値1ミリシーベルトという従来基準に戻した結果。
これまでの基準値は事故後の状況に合わせてとられた暫定基準値であり、暫定基準値はあまりにも緩和しすぎとこれまでも批判してきたものとしては、やっと従来の値に戻った正常化の動きは極めて喜ばしいことである。
たとえ原発事故爆心地であっても、人間の組織は同じであり、原発事故から放出された放射性物質によるDNA損壊に対するぜい弱さは低下することはあれ強くなることは決してない。したがって、今回の厚生労働省の基準正常化、
農水省の通達遵守の要請(独自「基準」の禁止)は極めて国民の生命身体財産を守るうえで大変重要である。
今回の新基準値は以下のとおり:
放射性セシウムの新基準値
(平成24年4月1日付)
食品群 基準値
飲料水 10
牛乳 50
一般食品 100
肉 卵 魚 その他
乳児用食品 50(単位:ベクレル/kg)※2 放射性ストロンチウム、プルトニウム等を含めて基準値を設定
(厚生労働省 資料、上記ULRより)
2. 問題の所在
厚生労働省平成24年4月1日付新基準値および政府市場介入規制反対の動き:
この厚生労働省平成24年4月1日付「新」基準値について、とりわけベラルーシの規制基準および自主規制方式を根拠に反対がある。
ここでの問題はそこで、
i. ベラルーシの規制の在り方(自主規制)は健康被害を防いだか?
ii. ベラルーシの規制要件なら足りている(いた)のか?
問題の背景:
とりわけ、ベラルーシの「柔軟な」「規制値による事実上具体的規制のない」「市場介入のない」「市場規制制限のない」(=市民が個別に市場製品放射線線量値を自分たちで測る(ということを擬制するためにだけ形だけ「規制値」が存在する))というベラルーシの自主規制方法は「被爆地地産地消」により政府や電力会社の賠償額分をけちるため、ベラルーシの人々の命と引き換えに死の原発被ばく爆心地「地産地消」を飲み込まされ続けたといっていいにもかかわらず、そのことを美化する動きは極めて危険かつ日本及び世界の消費者の食の安全をまったく無視し健康を守るという観点を全く看過したものではないかと考える。
そこで、ベラルーシとの基準値比較および「自主規制」方式が健康被害を防止できなかったのではという点から医学研究文献を資料とし分析したい。
3. ベラルーシの規制基準値と「自主的なルール」に守られた基準規制値
ベラルーシ1999年放射性セシウム基準:飲料水10bq/l
牛乳および乳製品 100bq./kg(l)
野菜 100bq/kg
果物40bq/kg
(ウィッキペディア「食の安全」より、上記規制数値抜粋)
ベラルーシでの規制‐自主規制‐の在り方:
この点、その市民主義的自主的規制方式についてNHK解説委員がベラルーシ市民の農業との密接なつながりそののびやかさ原発事故ベラルーシ被災者の方々の農業と地域産物へのあたたかな思いやりや思い入れに着目しその自主的規制方式につき具体的詳細に述べてくださった点はたいへん石川解説委員のあたたかなまなざしあふれる報道であると同時に、その自主規制のありかたの資料とさせていただきました(石川一洋NHK解説委員、スタジオパーク「食の安全・ベラルーシから学ぶこと」、平成23年2011年11月7日付、参照)。確かに農家の方々の気持ちをくみながら、地域の農産物をいただくという気持ちは素敵だと思います。が、それが原発地域の産物であり、健康被害を起こす危険がある規制基準値を超えた場合にも、政府の市場排除規制が聞かないということでは困ります。ふうっひょう被害は困ります。が、政府規制基準値を守る人がいなくなればますます市場に出回る産物すべてに対し疑念の目が向けられます。そして、事実、基準値を超えないことは健康被害を防止するうえで重要なのに、です。
ですから、最初に述べたとおり、ベラルーシのおおらかな自分で簡易測定器で測ればよいという方式は、個別の地域だけでは割り切れない食べられる野菜などを救おうという願いから生まれたものでしょうし、一部に合理性がないわけではないといいうるという説もあるでしょう。でも、本当にいちいち店先ですべてのりんごいっこみかんいっこを測定したのでしょうか?お肉をお肉屋さんの店先でいちいち買わないうちから測定機にあててはかったのでしょうか?魚をケースから取り出していちいち毎回本当に測定器を当てて基準値以下であるかどうか、本当にはかった人たちはどのくらいいたのでしょうか?
私はやはり、事実上「自主規制方式」の規制では、基準値以下を確保することは困難だったのではないでしょうか?
もっぱら市場と市民が個別に判断する自主基準化とされてきたことで、政府基準そのものは形式的には緩和基準から厳格基準へと健康被害防止の方向は進みましたが、実際上の基準の運用においてその基準すら事実上形式的なものとなってきたことです。
4.ベラルーシの基準と「自主」「規制」方式は機能したか?
ベラルーシの原発事故地「地産地消」と各自が自主的に各自で製品食物の放射線の値を測定し政府による市場介入規制をおこなわない「自主的規制方式」制度は一見美しいが死の「原発事故地地産地消」であって、決して機能しているとは言えないと解釈する根拠となると思われる医学研究データがある。ベラルーシのチェルノブイリ以後の原発事故被害における放射線被ばく積算量と放射線被ばくによるとみられるがんや白血病の、放射線被ばくと無関係とみられるがんや白血病の発生率死亡率との関係で分析しまた原発事故後80年後分析予測値を示した2006年に国際がんジャーナルに発表された医学論文
Elisabeth Cardis、et. al, "Estimates of the cancer burden in Europe from radioactive fallout from the
Chernobyl accident", Int. J. Cancer: 119, 1224–1235 (2006))
cited from wiley library ULR:http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/ijc.22037/pdf より一部要約引用資料をもとに、以下述べてみよう。
(*この研究は食物体内被曝だけには絞っていないので、直接的な答えではない。が、総放射性物質への積算被ばく線量としてはヨウ素131そしてセシウム137セシウム134をもとに空中の放射線量、接面土表面放射線量や食物摂取などから積算被ばく線量をだしていると説明されている)
国際がんジャーナル2006年掲載論文”Elisabeth Cardis、et. al, "Estimates of the cancer burden in Europe from radioactive fallout from the Chernobyl accident", Int. J. Cancer: 119, 1224–1235 (2006)Volume 119, Issue 6, Article first published online: 20 APR 2006”における分析を資料としての自説:
5.ベラルーシ‐甲状腺がんの発生率がチェルノブイリ原発事故以来増加し続ける国
この文献の1232ページ図6の右3列の図がベラルーシ各地域を含む図で、それぞれ甲状腺がんと診断された年代を横軸にし、積算放射線量平均値ごとでグループに分けし、1981年から2001/2年にかけての甲状腺がんの発症者数につきこのグループ100000人につき何人の発症者が出ているかの分析がなされていますす。こちらの図6でご覧くとお分かりいただけますように、ベラルーシを含むグループでは原発事故を境に明らかに甲状腺がんの患者数が急激に増加していることが見て取れます。積算放射線量02.ミリシーベルトを超えるグループから継続的急激な増加を示し、特に原発事故時5歳以上であればとくにその傾向は顕著で増加はそのまま継続し急カーブの上昇とともに減少していかない状態が続いています(2002までの資料に基づく図表。)
つまり、ベラルーシといえば、その放射線積算線量の多いグループであり(ベラルーシはそれぞれその地域により1ミリシーベルト以上10ミリシーベルト未満、10ミリシーベルト以上25ミリシーベルト以下、25ミリシーベルト以上のグループに属する)甲状腺がんの発症率は原発事故後極めて継続的かつ急激に増加の一途をたどってその後減少する傾向の少ない地域であるということがこの表から解釈できます。
6.そもそもベラルーシの基準値は足りていたか?(たとえば年間総被ばく線量1ミリ以下を前提としないベラルーシの基準値では足りてないといえるのではないか)
原発事故後総放射線被ばく線量平均値の重要性‐年間総被ばく線量1ミリ以下を目指すことで算定された厚生労働省「新」基準値は最低限で政府市場規制介入必要だ
この医学研究の興味深い点は、地域や原発事故の時の年齢(甲状腺がん)だけでなく、原発事故から20年の積算放射線被ばく量が1ミリシーベルト未満か、3ミリ超かどうかなどで積算放射線量ごとに5グループにわけ、それぞれの通常の医学的がんなどの発生ケースを別にして、がんの発生率に放射線原発被ばくとの関連性があるかどうかなどを客観的に分析している点が大変興味深い。というか、この結果は具体的にかなりの怖さを持って読まれるべきものと思う。なぜなら、2005年までの数字はすでに現実の数字だからだ。積算量放射線被ばくは無関係ではないということが具体的な死亡率がん羅漢率で立証されている。内部被ばくと外部被ばくという分け方だけでなく、分析対象を欧州の単純ながら対内外合計で年間合計積算の被ばく放射線量との関連性を明らかにしている点である。
この研究は欧州40か国を地学的観点から欧州といいうるという点で選び出して対象にしている。ロシアの場合にはもっともチェルノブイリ原発事故の被害が深刻だった4地域を含んでいる。それらの地域を年間の被ばく放射線量ごとにグループ分けして分析し、また、医学的な理由からの発症を別に取り扱うこととしている。
この論文では、欧州40カ国の原発事故以降20年積算放射線被ばく線量平均値と放射線被ばくによると考えられる、がん、甲状腺がん、白血病、にわけて分析し、原発事故後積算放射線量、原発事故放射線被ばくによるがん・白血病の発生率と死亡率を、チェルノブイリ原発事故発生時の人口との関連、放射線被ばくと無関係な発症率と死亡率との関係を、2065年までの予測と、現実に1986年から2005年までに起きた実数分析で行っている。
表1-2は2065年までの予測値が、それぞれ発症例、死亡例が放射線被ばくと無関係な場合の数値との比率を上げ示されている。
表3-4は1986年から2005年までの各実数発症数と死亡例、放射線被ばくと無関係な場合の各数値との比率が示されている。
まず表3を読むと白血病・甲状腺がん・メラノーマ以外の皮膚がんを除くガンに関しチェルノブイリ原発事故後1986年から2005年までの間に原発事故被ばくがんを羅漢下患者と放射線被ばくと関連なくがんを羅漢した患者数との比率を調べてみると、
放射線全身被ばく原発事故後20年積算量が0.9ミリシーベルト以下のグループでは0.01パーセントに過ぎない。
が、1ミリシーベルト以上のグループでは0.04(950人)、3ミリシーベルトを超えるグループでは0.13パーセント(700人)に上がる。
同様の全てのがん(白血病・甲状腺がん・メラノーマ以外の皮膚がん除く)に関しチェルノブイリ原発事故後1986年から2005年までの間に原発事故被ばくと関連なくがんで死亡した患者数との比率を調べてみると、
やはり、1986年から2005年までの前身被ばく積算量が0.9ミリシーベルトつまり1ミリシーベルト未満の場合は放射能被ばくと関連ないがん死亡患者数の0.01パーセントにすぎないが(300人)、20年積算被ばく線量が1ミリシーベルト以上のグループでは0.02パーセント(500人)、3ミリシーベルト超えるグループでは0.08パーセント(350人)に上る結果だとこの研究は示している。
同様の比較は白血病についても示されている。
白血病については積算放射線被ばく量との関連性がもっとくっきり表れている。
1986年から2005年までの積算被ばく線量が0.02ミリシーベルト未満のグループでは0.01パーセント(80人)にしかならない。
1ミリシーベルト未満のグループで原発事故被ばくと無関係な白血病発症例数に対する比率は、0.14パーセント(160人)、
1ミリシーベルト以上で0.35パーセント(300人)、3ミリシーベルト超えるグループで1.10パーセント(200人)となる。
白血病の死亡例でも同様に20年積算被ばく線量との関連性は大きいと分析できる結果が出ている。
つまり、1ミリシーベルト以上のグループでは0.32パーセント(200人)が、
3ミリシーベルト超えるグループでは、
原発事故と無関係に白血病で死亡した患者との比率で1.07パーセント(140人)が白血病で死亡している。
この白血病での20年積算被ばく線量と、原発事故被ばく理由発症数・死亡数との関連比較分析からは、できるだけ被ばく線量が少ないほうが少なければ少ないだけ危険はかなり減らせることが推察される。
甲状腺がんに関しては、チェルノブイリ原発事故の当時年齢が15歳になっていたかどうかで分けてもある。
事故当時の年齢が15歳未満である場合にはその後の積算被ばく線量がたとえ5ミリシーベルト未満であっても
顕著にその比率が高まるところが特徴だ。この分析では15歳被ばくの段階で甲状腺被ばく量が5ミリシーベルト未満からグループ分けせざるを得ないところも特徴だろうか。積算甲状腺被ばく量が5ミリシーベルト以下でも原発事故被ばくによらない甲状腺がん発生数に対する0.20パーセント(30名)が放射線被ばくによる甲状腺がんを発症し、年間1ミリシーベルト以上から4.9ミリシーベルトを単純想定させる積算25-99ミリシーベルト被ばく線量グループでは、放射線被ばく以外の甲状腺がん発症数に比して11.76パーセント(40人)、年間5ミリシーベルト超の被ばくを単純想定させる積算被ばく数値100ミリシーベルト超えたグループではおよそ放射線被ばくに無関係な甲状腺がん発症数と比して甲状腺がん発症者数29.41パーセント(250人)となっている。
(乳がんについても表1で参照されたし)
これらをもとに2065年の各発症数と死亡数を予測したのが表1-2である。
(以上、2006年に国際がんジャーナルに発表された医学論文
Elisabeth Cardis、et. al, "Estimates of the cancer burden in Europe from radioactive fallout from the
Chernobyl accident", Int. J. Cancer: 119, 1224–1235 (2006))
cited from wiley library ULR:http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/ijc.22037/pdf より一部要約引用資料をもとに述べた)
これらをご覧いただくと、年間1ミリシーベルトというICPRの数値は信頼できるに足るそして絶対に守らなければならない最低のラインであることがお分かりいただけるかと思う。
つまり、上記の研究でとりあつかっているのは原発事故後20年積算放射線被ばく線量の数値であることは大変に重要なことだ。
7.まとめ
上記の検討からご覧いただける通り、ベラルーシの自主規制方式(たとえそれが市民の農作物農家への思いやりから生まれたものだとしても)は健康被害を防ぐことには成功していないといえる。それが、方式のせいではなく、猛烈な原発事故後の放射線量の問題であるという指摘もあり得ないわけではない。なぜなら、ベラルーシ地域での自主規制でない政府介入型の基準値強制が行われていた地区というのが存在しないあるいは比較調査した資料がないという点があげられる。が、少なくとも客観的数値として、年間1ミリシーベルト以下に少なくとも食品摂取によってだけでも制限しようというのは、このCardis, et alによる医学研究から、最低限度の制限規制であり、絶対に最低限度強制力を持って守られる必要のある最低限度の数値であることは明らかである。したがって、今回の厚生労働省の年1ミリシーベルトを基準に各食品のセシウム放射性物質の規制量値を、事故後緊急に各農家酪農家漁業業界への配慮から行っていた緩和暫定値から通常健康を守れる最低限の必要基準値に戻したことは、極めて国民を日本在民のおよび各国際輸出基準という意味においても世界各国国民の健康を守るための最低限度の基準値に戻したに過ぎず極めて正当である。
と、同時に、その最低限度の基準を徹底するためには政府の介入による強制規制順守、規制値以下以外の食品の市場からの排除は健康を守るうえで欠かせない規制制度運用であり各業界において徹底的に順守されるべきものであると考える。(冨田麻里)
(了)